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シカゴマラソン2024 レポート "Hard to say I'm sorry"

執筆者の写真: RunningClub BreakThroughRunningClub BreakThrough

更新日:2024年10月22日

プロローグ:Hard to say I’m sorry(素直になれなくて)


80年代アメリカンポップス全盛期の頃にシカゴで生まれた名曲。一度は誰もが耳にしたことがある歌。その街に僕はいる。世界のランナーが集うWMM3つ目の旅、シカゴ。僕にとって何が素直になれないのか。今は何もわからない。




スタート地点へ:夜明け


前日20時に就寝して23時に目が覚める。


まだ時差ボケは続く。ここからは我慢我慢。決してベッドから出ずに目を閉じ続ける。外のビル群ではサイレンが鳴り響く。シカゴはドラマERの舞台なのだ。それでも僕は救命医ではない。ランナーだ。ここで起きたらまたレース中に睡魔に襲われる。キングベッドの端で小さく丸くなった僕の浅い眠りが続く。



4時に目覚ましが鳴る。思いのほか体は軽い。モルテン500ml・どん兵衛大盛りを一気に食べる。あとは定番の「わたしは風になる」を聴きながらストレッチ。6時20分に宿を出る。外はまだ暗い。風もなく寒くない。日本から持ってきた100円ショップの透明カッパでちょうど良い。でも周りにそんな格好はいない。This is Japan.



道すがら選手がどこからともなく続々と出てくる。みんなサーチライトに照らされる会場(グランドパーク)に向かって行く。ゾンビか夜光虫かランナーか。なんだか面白い。会場に着くともうそこは前夜祭のような光景。NYCの時よりは静かで多様性を少し欠く印象。徐々に空が白けてくる。



着替を入れた荷物を預けると尿意がちょっと顔を出す。我慢できる程度だが悩んでトイレに並ぶこと20分。僕の前にはテキサスから来た40代の女性。そこに老人が合流して10分ほど話し込んでいる。男は彼女の話を聞くことなく一方的に話をしている。「こいつ会話の基本知らんな。列に横入りやんけ。」と思っていたら突然男が列から離れて行った。すると彼女が僕の顔をマジマジと見ていう。「あの人知らない人。急にきて急に話し出して。オーストラリアから来て43回目のマラソンと言ってたね」。僕もそこにいた他の人も一同、目が点になって大爆笑。「てっきり君の友達だと思ったよ」。やっぱり世界は広い。突然話し出す彼もそれを根気よく聞いていた彼女も面白い。



トイレに並んでいる間に招待選手などのWAVE1(7時30分スタート)目前。アメリカ国歌斉唱。先ほどの彼女はスタートの方に向いて胸に手を当てて少し涙目だった。愛国心か、それとも彼女の人生に何かあったのか。彼女は何を思う。僕は時間が気になる。果たしてこのまま並んでいてスタートに間に合うのか。小便をとるかスタートをとるか。アメリカよ教えてくれ。



結局、締め切り15分前7時30分にはFゾーンへ入れた。小便は尿意以上の結果があって並んで正解だった。これも良い兆候。ゾーン入口はおしくら饅頭。人肌で体も温くなってカッパを脱いで無造作にフェンスにかける。他のランナーもトレーナー、セーター、ダウンを脱ぎ捨てる。NYCのときは寄付用のチャリティー箱があったのとは大きな違い。温まったついでに一気に人混みをすり抜けて先頭まで行く。先ほどの老人もそうだけど、アメリカは勝手気ままに行動する人を寛容に受け入れる(もしくは無視する)雰囲気がある。こうした行動も過剰でなければへっちゃらだ。



スタート:もう言い訳は許されない


WAVE2の先頭はFゾーン先頭。WAVE1がスタートしてから僕らは徐々にスタート地点へ誘導される。すごいよスタートラインが目の前にある。最前線にサブ3:20(4:40/km)のペースメーカーがいる。スタート時の混雑もない。曇り、気温16度、無風。さすが世界記録が出る大会だけある。好条件が全て揃った。最後まで目標のペース設定を迷っていた僕。確実にPB更新(サブ3:30・5:00/km)かそれ以上か。やはり勝負をかけないと結果は出ない。よし全ては整った。ここはサブ3:20(4:40/km)だ。

Hard to say excuse.



思いのほか静かにスタート。決断してスタートしたもののフルで経験したことのないキロ4:40を維持できるのか半信半疑が続く。9月に距離走が上手くできなかったことも不安な要素。でもその心配は観客の大声援に一気に吹っ飛ぶ。特にスタート直後の高層ビル群の間を抜けるコースは声が響いて何十倍にも大きく聞こえる。「Hohito」と僕のゼッケンを見て南米系のイントネーションで男性が呼びかけてもくれた。体は動く。心肺も全く問題ない。行けるところまで行こう。ダウンタウンを抜けてリンカーンパークや郊外の街並みが続く。サブ3:20のペーサーを常に5メートル先に見ながら中間点(21キロ)まで着いていく。



ハーフを超えて:風雲急を告げる


ところがやはりマラソンの神様は僕の距離走不足を見透かした。ジワジワと脚が重くなるのを感じる。ペーサの背中も離れていく。心に中でインクがじんわりと広がっていく感じ。勝負(ペースが落ちるのは)は30キロ過ぎてからだと思っていたのに早くもハーフ過ぎでやってきた。ここで願掛けのように予定していたモルテン黒(カフェインレス)を補給する。これで何とか流れを変えたい。堪えてくれ。それでもここで堪えても30キロ以降はどうすればいいのか。不安は尽きない。それを振り切るように体に鞭を打つ。さらに観客の声や大音量の音楽も背中を押す。ペーサーの背中が目の前2メートルまで近づく。このままの調子を維持したい、そんな一心だった。



がしかし、23キロから1キロ単位でペースが数秒ずつ落ちていく。 2年前のNYCのときもハーフで一気に睡魔がやってきたことも思い出す。おーシカゴよ!お前も風雲急を告げるのか。もうサブ3:20は厳しい。さらにはPBサブ3:30も危うくなってきた。

Hard to say I get Personal Best.



風雲急を感じつつ30キロ地点までは何とかサブ3:30のペース(キロ5:00)を維持。エイドではモルテンが白(カフェイン)と黒を大盤振る舞いしている。小市民の僕は何個もゲットして白1つを口にする。ドーピングとまでは言わないけどもカフェインを最後のエネルギーにしたい。そうするとカフェインの効用よりも前に沿道の観客が一気に大きくなる。まさにお祭り気分。僕のユニフォームを見て「SUZUKI company」とか「Japan」とも声をかけてくれる人がいる。ハイタッチやらTAPボードなど趣向を凝らした応援。この声援が目前に迫る風雲急を吹き飛ばしてくれた。風雲急は告げ口で終わった。



30キロを超えて:前へ前へ


モルテンも効いてきて何とか踏みとどまれた。あとは声援の量に比例して速度も落ちたり上がったり。モルテンのような人工物も良いけども人の声が一番のエネルギーだわ。 20マイル(残り10キロ弱)の看板を見てゴールを意識する。それでも魔の30キロ以降だから慎重にそして諦めずに前へ前へ。このままPB更新できず途中で歩いたら何のためにシカゴへ来たのか。帰国してから山積みの仕事と対峙できるのか。コーチをはじめクラブのメンバーに合わせる顔はあるのか。そんな消極的なパワーも背中を押す。さらに最後のカフェインパワー注入。2日目のランチを食べたチャイナタウンを一気に南下する。最南端を折り返すとあとはミシガンアベニューを北上するのみ。目前にはダウンタウンの高層ビル群が見える。帰るぞ俺のダウンタウンへ。



ゴール:This is America.


残り2マイル(3.2キロ)。Hard to say I’m sorryのメロディーが後半一気にアップテンポになる感じ。この曲、最初は静かだけど最後は物凄くアップテンポなのだ。滑走路を飛んでいくようなイメージ。


ここからはワクワクしながら大歓声に応えながらゴールを目指す。僕が腕をあげれば観客も腕をあげる、目が合えば声をあげてくれる。日本人応援団もいた。ウェーブも起こりそうな勢い。グランドパークに入るコーナーを曲がり残り400メートル。さらにカーブを曲がると目の前にゴールが待っていた。今回は笑顔で達成感ある中でゴール。サブ3:20は達成できずも次につながる3:23。ゴールした時は空は曇天から青空に変わっていた。体はちょっとだけ疲労あり。歩けるし座って立つこともできる。これも成長の証だ。




ゴール後はお土産づくし。メダル、暴風シートをかけてくれたあとは、ビニール袋を持たされて、水、バナナ、りんご、ドーナツ、モルテンバー、プロテイン飲料、米菓子、ジュースがどんどん入っていく。そしてなんと最後は缶ビール。驚く僕にスタッフの彼女は大きく叫んだ。「This is America!」この勢いに押されて久しぶりにビールを一口飲んでみたけどもとても不味かった。これもまたアメリカだ。



エピローグ:素直になりたくて


ゴール後、芝生で日光浴しながらレースを振り返る。まだいけたな。ただし練習にスピード練習を追加して週末に距離走を入れないとダメだな。月間250キロだな。


その後、京都出身シカゴ在住の知人親子と美術館前で談笑後、ピザハウスUnoへ向かう。ビールよりもコーラがうまい。ピザが焼かれる40分間、バーカウンターでスマホ片手にさらに振り返る。自問自答。まだ行けたな。でも練習もっとしっかりしないとダメだな。来年はベルリンに当選するぞ。最大の壁ボストンの参加資格サブ3:15をどこで達成するのか。もう40代資格も終わりが近い。調べると2025年9月のエントリーまでに達成しないことが判明。まずい。実質、あと半年もない。

Hard to say I get Six majors.  



でもやるしかない。よし、今日の勢いのままに2025年2月の大阪でサブ3:15 だ。ピザの熱さとコーラの冷たさが交互にやってくる。僕の内心も揺れていた。


最後の夜は柄にもなくJAZZ Barに行って締めくくる。さよならシカゴ。次は1人でなくて誰かと一緒に来るよ。その時はタイムではなくもっと街を味わいたいな。日本に帰ったらもっと素直になろう。そんな気がしてきた。 

Hard to say I’m sorry.



終わり





[シカゴマラソン概要]

1977年に始まる。平坦なコースと涼しい秋の気候が特徴。

2023年大会で男子世界記録、2024年大会で女子世界記録が出ている。

エリートランナーから市民ランナーまで約45,000人が参加する。WMM(シックスメジャーズ)の1つ。


過去に出場したWMMシリーズのレポートはこちら。

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